photo by Dinuraj K
オープンダイアローグとは
最近「オープンダイアローグ」という心理療法が注目されているそうです。
心の病気を患った人に対して薬を投与することもなく、入院させることもなく、お医者さんたちと「対話」を行うだけで治療に導くというこの方法。北欧フィンランドでは統合失調症の治療方法として成果をあげていて、日本にもこの手法を積極的に輸入しようとする動きがあるようです。
オープンダイアローグは急性期の統合失調症にとても有効だそうですが、その他にもうつ病、PTSD、家庭内暴力といった様々なメンタルの問題に効果を示すそうです。
とても興味深いですね。一体どういう心理療法なのでしょうか・・?
オープンダイアローグの方法
オープンダイアローグは以下のような手順で行われます。
まず、先生と患者さんとの間で診療の予定が決まると、すぐさま数人の医療チームが編成されます。医療チームには医師やセラピストに加えて、患者さんの家族や親戚の方など、患者さんが心を許せるなじみの深い方々が加わるそうです。そして24時間以内に患者さんの家に出向き、オープンダイアローグの対話が行われます。
オープンダイアローグの場で行われるのは「開かれた会話」。メンバーみんなで輪になって座り、まったりとした雰囲気で話し合いが行われます。時間に特にきまりはないそうですが、だいたい一時間半くらい話し合われることが多いそうです。
患者さんの症状について語り合うのもよし。症状について語ることに抵抗があるようなら、とりとめのない雑談を交し合うのもよし。とにかくリラックスした雰囲気の中で、患者さんやメンバー全員で話し合いを行います。
ポイントはメンバー全員が会話に参加し、そして発話されたことに対しては必ず応答が返されること。この安心できる場の中で言葉のキャッチボールを繰り返すうちに、患者さんの病気は快方へ向かっていきます。
オープンダイアローグの理論
オープンダイアローグの理論はちょっと難しくて、私にはちゃんと説明できる自信がありません・・。
基本的には、患者さんが不安や恐怖心を抱いて心の壁を張り巡らしている状態に対して、皆で安心感を与えて公共に開かれた態度を引き出すことがキモなようです。
病理の世界に閉じこもり、幻覚や妄想の物語を信じる患者さんに、言葉のキャッチボールによって皆で「OK」だよと肯定感を与えて、公共的な視点や社会適応的な物語を取り戻させる。
ネガティブな自己像に囚われて鬱々としてしまっている患者さんに、健康的な人々と受容的なコミュニケーションをする場を設けることで、ポジティブで健全な自己像を再構成することを手助けする。
みたいなことなんですかねイメージとしては。
もっとちゃんとした説明を知りたい方は、斎藤環さんの著書「オープンダイアローグとは何か」を読むと良いと思います。この本、図書館で借りようと思っているんですが、いつも貸し出し中状態でなかなか借りられません。みんなオープンダイアローグに興味深々なんですね・・。
対話が足りない時代?
このオープンダイアローグという手法が注目される昨今の状況は、何かとても示唆的なものを感じますね。
もともとこういったオープンダイアローグ的な対話は、私達の日常生活の中でも頻繁に行われていたものではないでしょうか。
お茶の間で一家が集まって団欒をしたり、近所の道端でおばちゃん達が井戸端会議をしたり、会社の会議でだらだらと雑談じみた会話を交わしたり。
最近メンタルに問題を抱えて心療内科や精神科にかかる人が増えてきてるそうですが、その原因は日常生活の中でこういったゆるゆるとした会話を交わす空間がなくなってきたことが一因かもしれません。
政治哲学者のハンナ・アーレントは、人々が政治的議論を交わす公共空間を「現れの空間」と呼びました。この他者と出会う「現れの空間」を持たない孤立した個人は「根無し草」であり「故郷喪失」した状態にあると説明しました。
アーレントは、人が地に足をつけた開かれた感覚を保つためには、フェイス・トゥ・フェイスで対話を交し合うような公共空間が必要だと考えていたようです。オープンダイアローグの対話には、この公共性を喪失した孤立した人々に開かれた感覚を取り戻させるなにかがあるのかもしれません。
オープンダイアローグという手法は単なる病気の治療法ということを超えて、何か社会に対して重要な問題提起をしてるような気がします。
まとめ
オープンダイアローグという手法、まだネット上にあまり詳しい文献がなくて、なんとなく断片的に情報を聞きかじっただけなのですが、ヒッキーな私から見ても直感的にとても有効な方法な気がします。かくいう私ももう一年以上人とまともに口をきいていなくて、オープンダイアローグ的にいうとかなりイエローカードな状態にあると思います・・。誰か優しく包摂的に私と話し合いをしてくれる人はいないものでしょうか・・。
参考サイト・参考文献:
参考「「開かれた対話」と「人薬」」斎藤環 家族療法研究 第32巻第2号(2015年)
参考「統合失調症をかかえた人ほど、独り言に陥りやすい「オープンダイアローグ」という治療法」米光一成 エキサイトレビュー(2014年)