なぜ人々は専門家の言う事をきかないのか!?

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expertsphoto by Tina D

久しぶりのニュース記事の翻訳です!

なんだか最近の時事問題と絡みそうな、面白い記事を見つけたので紹介します!

この記事では、「人々が専門家たちの支持する意見を無視したり誤解したりして、時に誤った世論を形成してしまう」という、なんだか不思議な現象が考察されています。一体どういうことが起きているんでしょうかね・・。

以下、カナダ・ウォータールー大学の心理学教授 Derek J. Koehlerさんが語る「Why People Are Confused About What Experts Really Think(なぜ人々は専門家の考えを把握できず混乱してしまうのか)」です!

公平に報道するのは難しい!

世界には複雑な問題が増えてきています。

「食品の安全性の問題」「地球温暖化の影響」「子供たちの予防接種の問題」

こういった難しい問題を考えるためには、どうしても専門家に意見に頼ることが必要です。私たちは複雑な問題を考察するための訓練を受けていませんし、知識も持ち合わせてはいません。

私たちは主に、ニュースメディアを通じて専門家の意見を耳にします。このとき、メディアの作り手であるジャーナリストたちは様々な悩みを抱きます。

例えば、多くの専門家達が賛成しているけども、一部の専門家は反対しているような問題です。こういった問題をどうやって人々に歪曲せずにうまく伝えることができるでしょうか。どちらの見解にも偏らず、公平に伝えなくてはいけません。これはなかなか難しい問題です。

「証拠の重み付け」を報道する手法!

批評家はしばしばメディアの報道を批判します。

「専門家の間でほぼ合意がなされている問題について、わざわざ意見の対立の構図を作り上げようとしている」「大衆に間違った印象・間違ったバランス感覚を植え付けようとしている」といった批判です。

こういった問題を解決する方法として、報道の際に証拠の重み付け(weight of evidence)を提示するという手法があります。対立する専門家たちの意見がどのように分布しているかを、指標を使って示すという方法です。この手法はイギリスBBCニュースなどがよく使っています。

「証拠の重み付け」の報道は有効か?

「証拠の重み付け」を報道する手法は、はたして有効なのでしょうか?実はこれを調査した研究はあまりありません。

そこで私は、報道における「証拠の重み付け」の手法が有効がどうかを調べる実験を行いました。

そして結論から言いますと、どうやら「証拠の重み付け」の手法はあまり有効でないことが明らかになりました。

人々は意見の対立する専門家の話を聞いた場合に認識の歪みを起こしてしまい、バランスのよい合意に至ることができませんでした。人はたとえ誤解を取り除くために必要な情報を全て与えられたとしても、認識の歪みを正すことはできないのです。(この実験は「Journal of Experimental Psychology」の論文集に掲載されています)

「意見」を聞かされると説得されてしまう!

実験の内容は以下のようなものです。

実験の参加者は、ある社会問題についてプレゼンテーションを受けます。その後、シカゴ大学の多数の専門家たちの意見がどのように分布してるかを、パネルを使って説明されます。

例えば「炭素税の導入」については93人の専門家が賛成し、たった2人の専門家が反対しています。一方「最低賃金のアップ」については、もっと意見が割れています。38人が同意・27人が不明・36人が反対しています。

ある参加者のグループは、専門家の意見がどのように分布しているかという「支持率」だけを聞かされます。また別の参加者のグループは、専門家の「支持率」だけではなくて、それぞれの「主張」をコメントとして一緒に聞かされます。例えば「炭素税に賛成する主張(93人が支持)」と「炭素税に反対する主張(2人が支持)」といった具合です。

そして最後に参加者は、どちらの意見にどの程度賛成する気持ちがあるか、アンケートを呼びかけられます。その結果、専門家の「支持率」だけを聞かされたグループは、多数の専門家が支持する側の意見に賛成が集中する傾向がありました。一方、専門家の「支持率とコメント」を聞かされたグループは、比較的が両意見に賛成がばらつく傾向がありました。

つまりコメントを聞かされた参加者は、専門家の間でほぼ合意がとれている問題(例えば炭素税)と、意見が割れている問題(例えば最低賃金)を、明確に区別することが難しく、同じように評価してしまう傾向があるということです。

この傾向は、人々の「支持する気持ちの度合い」を変化させるだけではなくて、「実際にそれを導入するかどうか」の判断を下す、意志決定のレベルにまで影響を与えていました。

私は別の研究で、人々に「映画評論家」の意見を聞かせる実験をしたこともあります。そのときも今回の実験と同じような傾向が見て取れました。この傾向は政治的なトピックだけではなく、あらゆるトピックで普遍的に起きる現象のようです。

なぜ専門家の支持率が見落とされてしまうのか?

この認知的不具合はいったい何を意味するのでしょうか。一つの仮説はこうです。

我々がある問題について集団の立場をコメントと共に紹介されるとき、我々の頭の中に、その意見を述べているある「一人の人物」を、心的表象として想起してしまうということがあります。このとき想像する「人物」のイメージが、統計的な数の効果を忘れさせてしまう心理的効果を生み出すのではないでしょうか。

また別の仮説ですが、我々がある主張をもっともらしく、筋が通っていると感じた場合、たとえ少数の専門家しか支持しない主張でも、その主張の持つ「重み」を無視することに抵抗を覚えるのだ、と捉えることもできそうです。

これは言い替えると、ある意見に対して反論が述べられただけで、我々は心の中に「この意見は不確実なのではないか」という疑念を感じてしまう傾向があるのではないでしょうか。この心理により「多くの専門家が支持している」という事実からくる確信が、揺らいでしまうのかもしれません。

専門家の意見からかけ離れていく世論!

この効果の原因には様々なことがあるかもしれませんが、この効果がもたらす影響についても無視できないところがあります。

政府の行動は「世論」から影響を受けます。そして「世論」の一部は「専門家らの意見」によって影響を受けます。しかし「世論」はしばしば「専門家の意見」から逸れてしまうことがあります。

こういったことが起きるのはなぜでしょう。そもそも人々が専門家の意見を認めたがらないということもあるかもしれませんが、それと同時に、人々の間で「専門家たちが何をどのように考えているのか」「専門家たちの意見がどのように分布しているのか」を正確に理解することを妨げる効果が働いているからなのかもしれません。

まとめ!

以上、Derek J. Koehler教授が語る「Why People Are Confused About What Experts Really Think(なぜ人々は専門家の考えを把握できず混乱してしまうのか)」でした!

「多くの専門家の間で意見が一致していて、ほぼゴールが見えているような問題でも、大衆はいろいろと混乱して間違った道に迷い込んでしまう」ということなのでしょうか・・。

なんだかDerek J. Koehler教授に「お前らもっと俺たちの言う事聞けよ!」と怒られてしまってるようで、(´・ω・`)ショボーン としてしまいそうな記事ですね、教授ごめんなさい・・。

この話を聞いて真っ先に思いついたのは、ちょっと前に起きた安保法案の一件です。集団的自衛権が「違憲」と言う学者が100人以上いて、「合憲」と言う学者はたった2人、おもえばあのショッキングな出来事で、安保法案の議論が一気に加熱し出した気がします。

私は議論が難しすぎてほとんどサジを投げていたのですが、あのときも「合憲」に共感する一般人たちがわりとたくさんいた、ということなんでしょうか・・?

この記事の中で、人間はある意見集団を擬人化して「一人の人間」としてイメージする傾向がある、といったような心理的効果について語られていますが、なんだか興味深いですね・・。

以前もこのブログで書きましたが(→この記事)、「キャラ」にはとても強い影響力があります。あるものごとや集団にいったんキャラ性が確立されると、その魅力によって人々の目を釘付けにし、耳を傾けさせ、専門家の意見や統計データなんて吹き飛ばしてしまうほどの引力が生まれるのかもしれません。キャラの放つ言葉や立ち振る舞い、背負ってる物語は、たいへん人の感情を揺さぶる効果がありますからね。実験ではこういった効果が微力ながら働き、反対側の意見に「勧誘」される人が出てきたのかもしれません。マーケティングとかをやってる人は、こういうことに詳しいかもしれませんね。

少数派に意見を無視せずに積極的に耳を傾ける、というのは「少数派の尊重」という観点から見るとむしろよいことかと思いますが、しかし一見少数派に見える勢力が、しだいにどんどんと勢いを増し、なんだかめちゃくちゃな主張を繰り広げ、専門家や理性的な人々の意見を打ち負かし、やがて世論を覆いつくしてしまう、なんてことが起きてしまうと、なんだか危ない気がしますね。

日本でもトランプさんみたいな現象が起きてしまっては困り物ですから・・。トランプさんのキャラがたいへん魅力的なのも分かりますが、何事もバランスが大事ですね・・。


参考サイト・参考文献:
参考「Why People Are Confused About What Experts Really Think」, The Newyork Times(2016)

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