スラヴォイ・ジジェクがパナマ文書について語る!

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zizekphoto by Andy Miah

スロベニアの哲学者、スラヴォイ・ジジェクが「パナマ文書流出事件」について語っています。

どういうことを言ってるのか知りたくていろいろとググってみたのですが、誰も内容を教えてくれないので頑張って自分で翻訳してみました・・。

以下、ニューズウィーク誌の記事の翻訳
「EXPLAINING THE PANAMA PAPERS, OR, WHY DOES A DOG LICK HIMSELF?」
です!

「パナマ文書を解説 ~なぜ犬は自分を舐めるのか?~」

今回のパナマ文書の流出について最も驚くべきことは、それらが全く目新しい情報ではない事です。

いったい我々は今まで、彼らのしていることを正確に理解できていたのでしょうか?

たしかに我々は、海外にパナマのような租税回避地があることは知っていました。しかし、知っていることと実際にその具体的な証拠を目の当たりにすることは、別の意味を持ちます。

例えるならばそれは、自分のパートナーが浮気をしていることが明らかになった状況に似ています。抽象的にそのことを聞き知った段階では、まだあなたはその事実を受け入れることができるかもしれません。

しかし、その具体的な状況が明らかになるにつれて、あなたの胸に痛みが走るようになります。自分のパートナーが他の人間と一体何をしているか、その行為を収めた写真を突きつけられたらどうなってしまうでしょう?

今回のパナマ文書はまさにそうです。世界の富裕層たちの汚らわしいポルノ写真を突きつけられてしまった我々は、もはやその行為を無視することはできないのです。

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1843年、若きカール・マルクスは旧ドイツ体制に対して「自分の想像できることだけを想像し、世界中に対して同じことするように要求している」と批判しました。

こういう状況では、権力者に恥をかかせることが武器を手に取ることと等しくなります。

マルクスは「圧力を受けていることが意識されたとき、圧力はより大きくなる。そして恥は、それが公にされたときにより強くなる。」と述べています。

これが我々の置かれている今日の状況です。

我々は既存のグローバル体制を取り巻く、恥しらずなシニシズム(冷笑主義)を目の当たりにしています。シニシストたちは自分たちの信じる理想(民主主義、人権、etc…)を勝手に思い描いています。

そして人々は「ウィキリークスによるパナマ文書の開示」といった行動によって、恥を明るみに出そうとします。マルクスの言う通り、恥(=人々が体制の振る舞いに無頓着である恥)は公にされることでより強化されるのですから。

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パッと見でパナマ文章には、際立った「プラスの要素」と「マイナスの要素」があります。

「プラスの要素」は、人々の広範囲にわたる団結です。

巨大資本に覆われた暗い世界の住人たちは、みんな兄弟なのです。西側先進諸国の人々も、腐敗していないスカンジナビアも含めてみんな仲間です。

彼らはプーチンとがっちり握手をかわします。そこでは中国の習近平もイランも北朝鮮もみんな仲間です。イスラム教徒とキリスト教徒がウインクを交し合うこの場所は、多文化主義が実現された真の自由の王国です。

ここでは全てが異なり、全てが同じなのです。

一方「マイナスの要素」は、今回の件でアメリカの存在が全く消え去っていることです。

このことは、ロシアや中国が「パナマ文章の公開には政治的意図が絡んでる」と主張していることに、一定の説得力を与えます。

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さて、我々はこのパナマ文書に対して一体何をすればいいのでしょうか。

当然初めに現れる反応は(そして最も顕著な反応は)猛烈な道徳的怒りの爆発です。

しかし、我々はすぐにそこから離れなくてはいけません。

政治家や投資家や経営者は常に貪欲です。貪欲な彼らに、それを自覚してもらえるような法律・経済の仕組みとはいったいどういうものなのでしょうか。

これを考えなくてはいけません。

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2008年の金融ショック以降、ローマ法王の述べた資本主義批判に感化された人々は、「過剰な貪欲を求める文化」に次々と攻撃をしかけています。

彼らはこう言います「現在の状況は資本主義の危機ではなくて道徳の危機です!」。一部の左側の人間もこの考えに共感しているようです。

今日の「反資本主義運動」はもはや頂点に達しています。抗議デモが数年前から爆発的に増えてきていて、我々は資本主義の恐怖を叫ぶ声に触れすぎて、情報過多気味になっているくらいです。

新聞や本やテレビでは、環境を汚染する企業のこと、破綻寸前で公的資金を貰っているくせに高給を貰っている企業の役員たちのこと、その公的資金を支えるために子供たちが貧困の中で過重労働をしていること、などを繰り返し報道します。

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こういった「言論の過剰」とも言える現象には罠があります。

概して、「貪欲な資本主義」と戦うリベラル民主主義の「フレーム」そのものについては、疑われることがないのです。

明示的な(もしくは暗黙の)ゴールは、資本主義の民主化であり、民主主義を経済をコントロールできるように拡張することであるはずです。これをメディアの圧力や、政府の介入、法的規制、警察の捜査、等によって実現するのです。

しかし、これの実現に必要な「システム」そのものは、疑問視されることはありません。

民主主義的な制度を形作る体系そのものについては、「インドの聖なる牛」のようにノータッチのままです。オキュパイ・ムーブメントに代表される、最も過激な「倫理的反資本主義集団」でさえ、ここには言及しません。

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こういった過ちを理解するのに、ちょうどいい一例があります(これが実話かどうか分かりませんが・・)。

ケインズ左派の学者、ジョン・ガルブレイスの話です。

彼が1950年代にソ連に旅行するとき、彼の友達の反共主義者、シドニー・フックに手紙を書きます。

「心配しないでください。私はソ連に勧誘なんてされません。『彼らは社会主義を持っている!』と言ってすぐ戻ってきてきますよ。」

フックは、速やかに彼に答えました。

「それが心配なんです。あなたはきっと帰ってきて、『ソ連は社会主義ではない!』と言うのではないかと。」

フックが心配したことは、純粋な理想を持つ彼が、その純粋さを保つために「防衛反応」を示すのではないかということです。

もし社会主義国家を作ることに失敗したとしても、そのアイデア自体は間違いではない、ただやり方が適切でなかっただけなんだ、という考え方です。

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最近の、市場原理主義者の中にも、こういう考えを持つ人が見受けられるような気がしませんか?

数年前に私が出演したTV番組でディベートがありました。

フランスの知識人ギ・ソルマンは、民主主義と資本主義は必然的にセットにならざるを得ない、と主張しました。

私は彼にこの疑問を尋ねずにはいられませんでした。

「では中国はどうでしょう?」

彼は答えました。

「中国に資本主義なんて存在しませんよ!」

資本主義を信仰しているソルマンにとっては、非民主的国家はその時点で正統な資本主義国家ではなく、その廉価バージョンを実行している国に過ぎないのでした。

これはまさに、民主的共産主義者がスターリニズムを正統な共産主義であると認められないことと、同じではないでしょうか。

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根本的な間違いを示すことは、そんなに難しくありません、それは有名なこのジョークと同じことです。

「私のフィアンセは絶対約束に遅れないんですよ、なぜなら彼女が遅刻した瞬間もう私のフィアンセではないですから!」

これが今日のマーケットを擁護する人々の論理です。

彼らはイデオロギーに染まった前代未聞のかどわかしによって、2008年に起きたあのショックをこう説明します。

「あれは自由市場の欠陥によって起きたものではなくて、過剰な国の規制(…etc)によって起きたものです。我々の市場が未だに本物になれないのは、福祉国家的な考えに支配されているからです。」

パナマ文章の教訓とはここにあります。

一連の腐敗は、上記のようなグローバル資本主義のシステムから逸脱して偶然発生したものではありません。腐敗はこのシステムに搭載されている、基本的機能の一部なのです。

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パナマ文書の流出が示す現実はシンプルに「階級の断絶」を表しています。

富裕層の人々は別世界に住んでいます。そこでは富める者だけの特別ルールが敷かれ、法制度や警察制度が歪曲されて、彼らを保護するだけではなく、彼らに便宜を図るために法律を捻じ曲げる準備までなされています。

すでにリベラル右派(リバタリアン)の人たちから、パナマ文書を引き合いにして、行き過ぎた福祉国家的考えを非難する声がたくさんあがっています。

「富に対して税金をかけすぎたのだ。だから富裕層は資産を税金の少ない土地に移そうとするのだ。これは全く違法なことではない!」という声です。

この言い分はいろいろおかしい所もありますが、二つの点で真実を突いてもいます。

一点目は、合法化か非合法化という境目は、近年ますますぼやけてきているということです。こういった問題は結局のところ、個々人の解釈に還元されてしまうものです。

二点目は、タックスヘイブンに富を移動する人間は、特に卑しいモンスターというわけではないことです。単に自分の財産を合理的に守ろうとしてるだけの、普通の人間です。

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資本主義では、金融投機から生じる汚らしい廃水を無下に捨ててしまっては、健全な実体経済の赤ちゃんを育てることはできません。汚れ切った廃水こそが、健康な赤ちゃんの血液になるのです。

この終着地点に向かうことを恐れてはいけません。グローバル資本主義が持つ法制度の根本的な特徴は、腐敗を合法化することなのです。

どこからどこまでが犯罪なのか、どういった金融取引が違法なのかといった質問は、法的な質問ではなくてきわめて政治的な質問であり、権力闘争によって決まる事柄です。

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さて、多くのビジネスマンや政治家がパナマ文書に載ってしまうようなことをしてしまったのは、なぜなのでしょうか?

この答えは、古くからあるあの下品なジョークと同じことです。

「どうして犬は自分のことを舐めるの?」

「なぜならそれができるからだよ!」


参考サイト・参考文献:
参考「EXPLAINING THE PANAMA PAPERS, OR, WHY DOES A DOG LICK HIMSELF?」, NewsWeek(2016)

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コメント

  1. より:

    「どうして犬は自分のことを舐めるの?」
    というジョークに、もう一つ気がきいた答えがあるそうです。

    それは「彼は右手が使えないからだよ!」ということです・・。

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