フラッシュモブ離婚をゴフマンを使って読み解くよ!

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flashmobphoto by Ly Thien Hoang (Lee)

最近ネット上で「フラッシュモブ離婚騒動!」が話題になってますよね。

「フラッシュモブ」とは、みんなを驚かせようとしてあらかじめ示し合わせた人々が、唐突に歌い出したりダンスしたりする、どっきりサプライズ的な余興のことです。

結婚式でこの「フラッシュモブ」を披露されたお嫁さんが旦那さんにブチ切れて「お前とはもうやっていけんッ!」と離婚してしまったという騒動です。

お嫁さんは以前から「結婚式でフラッシュモブはやらないでくれッ!」と旦那さんにお願いしていたそうですが、旦那さんは言う事をきいてくれずに強引にフラッシュモブを決行してしまったということです。

お嫁さんは、大嫌いなフラッシュモブを目の当たりにして、ショックのあまりその場で泣き崩れてしまって大変だったそうです・・。

フラッシュモブの何がそんなに嫌だったの?

お嫁さんはいったいフラッシュモブの何がそんなに嫌だったんでしょうかね・・?

たしかに私も結婚式でフラッシュモブなどと聞くと、なんだか「うぇーいwww」といったリア充くさいノリを感じてしまってあんまし好きではないのですが、泣き崩れてしまったり離婚してしまったりというのは、なんだか並々ならぬ事情を感じてしまいますね・・。

もしかしてフラッシュモブにはお嫁さんの「心の傷」をえぐってしまうような、特別な何かがあったのではないでしょうか・・。

コミュ障という傷!

以下のお嫁さんと旦那さんについての考察は完全に私の妄想創作ストーリーであり、事情も知らないのにあれこれ勝手なことを申し上げてしまって恐縮なのですが、おそらくお嫁さんはとても引っ込み思案で、コミュ障的な性格をしている人だったのではないでしょうか。

周囲の人に溶け込めずに、常にある種の生きづらさや孤独を感じながら過ごしてきたお嫁さん。この気持ち「引き込もボッチ」な自分にとってはとてもよく分かりますね・・。

以前もブログで話しましたが、現代はコミュ力がものを言う「コミュ力至上主義」社会です。

ドラゴンボールの世界で「戦闘力」が能力の全てであるように、この社会では「コミュ力」がその人の格を決定してしまいかねない、なんだかヤバい世の中なのです。

お嫁さんは自分のコミュ障な性格にコンプレックスを抱いていて、まるで自分のことを不能者であるかのように恥ずかしく思いながら、それをひた隠しにしつつ生きてきたのではないのでしょうか。

これは社会学者のゴフマンが述べた「スティグマ」という属性に似ていると思います。

スティグマとは?

「スティグマ」とは、社会から受け容れられない異端者に押し付けられた「烙印」のことです。

顔に火傷を負ってしまった人や、身体が不自由な障害者、心の病を持つ人、性的マイノリティ、黒人など、「スティグマ」を持つ人は人々から白い目で見られて、社会からつまはじきにされてしまう辛い運命にあります。

スティグマを持つ人の中には、自分の「傷」をひた隠しにしながら、社会に溶けこもうと努力する人がいます(パッシングという行為です)。そんな人たちが最も恐れるのは、衆人環視の中で自分の「スティグマ」が発露してしまう瞬間です(ゴフマンはこれを「事件」と呼んでいます)

以下は押見修造さんの「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」という漫画のワンシーンです。吃音を持った志乃ちゃんがクラスメートたちの前で大恥をかいてしまう場面です・・。
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どうでしょう、相当きびしくて「ウッ」ときてしまうシーンですねこれは・・。

もしかして今回の騒動のお嫁さんにとっては、フラッシュモブはこのような「ゴフマンの事件」に相当する出来事だったのではないでしょうか。

フラッシュモブを「ウェーイ!」と楽しむ旦那さんたちと、そんなノリに着いていけない自分・・。今まで一生懸命世の中に溶けこもうと頑張って合わせてきたのに、やはり頑として存在するリア充たちと自分との壁・・。

「やっぱり私はみんなと違うんだ・・」という心の奥底に押し込めてきた傷がズキズキと痛み出して、鬱積した感情が決壊する形で、ワッと大泣きしてしまったのではないかと、そんな気がいたします・・。

仲間になれなかった旦那さん!

ゴフマンは、スティグマを持つ人には「同類」や「訳知り」と呼ばれる仲間たちがいると述べています。

「同類」とはその名の通り、同じスティグマを持つ仲間たちのことです。

「同類」の人々は、黒人同士のコミュニティや、障害者同士のコミュニティや、コミュ障同士のコミュニティといった、同属たちの集団を形成します。

一方「訳知り」とは、スティグマを共有はしていないけども、彼らに対して理解がある仲間たちのことです。例えば障害者の人にとっては、「お医者さん」や「家族の方たち」などです。

今回の騒動に登場する旦那さんは、フラッシュモブなどをやってのけてしまう人種なので、おそらくずいぶんと「リア充」気質な人なのではないかと思います。

「コミュ障」というスティグマを持つお嫁さんに対して、旦那さんがとるぺきポジションは理解のある「訳知り」であったのだと思いますね。

しかし、この旦那さんは最後の最後で「訳知り」になることができずに、お嫁さんに拒絶されてしまいました。お互い理解し合えないまま結婚式まで行ってしまって土壇場で破局、なんとも悲しい結末ですね・・。

ゴフマンは、スティグマを持たない常人が「訳知り」になるためには「心の変化に至る私的な経験」を通り抜ける必要があると述べています。

相手のスティグマに一方的に共感的な理解を示すだけでは足りなくて、相手の側からも受け容れられなくてはいけない。この二人にはもっと心の深いところで情緒的に繋がりあうための、なにか印象的な体験が必要だったのかもしれませんね。

「白と金のドレス」と「青と黒のドレス」

今回の騒動は、見る人によって大きく分けて二つの異なるストーリーが読み取れると思います。

一つは「無神経でアスペな旦那さんに苦しめられる繊細なお嫁さん」というストーリーです(「カサンドラ症候群」はこういう話ですね)

一方もう一つは「メンヘラ気味で面倒くさい女の子に降り回される災難な旦那さん」というストーリーです。

ネット上ではこの騒動について喧々諤々の議論が繰り広げられてますが、これらは「旦那さん側」に感情移入してる人たちと「お嫁さん側」に感情移入してる人たちとの間の語り合いなのだと思います。

ゴフマンは、スティグマを持つ人たちが集まる「内集団」と、常人たちが集まる「外集団」について、以下のような特徴があると述べています。

スティグマを持つ人たちは「社会はもっと我々のような人間を受け入れろ!」と「政治的表現」を使って世の中を糾弾します。

一方、常人たちはスティグマを持つ人たちに対して「もっと自分の内面を変えて社会に適応しろ!」と「精神医学的表現」を使って相手を諭そうとします。

今回のお嫁さん側を責めるネット上の声は以下のようなものです。

「この嫁さんはメンヘラすぎるだろ!」「こんなことで離婚とかわがまますぎ!」「旦那がかわいそう!」

これは、お嫁さん側にもっと社会に適応するように促す、常人側からの「精神医学的表現」にあたるのだと思います。

一方旦那さん側を責めるネット上の声は以下のようなものです。

「フラッシュモブとか同調圧力だろ!」「この旦那アスペすぎ!」「こんな男離婚して正解だわ!」

これは、社会はもっとコミュ障の人たちに歩み寄るべきという「政治的表現」にあたるのだと思います。

ネット上で炎上する話題の多くは、こんな風に政治的な主張をする人と、それを諫めようとする人との間のぶつかり合いの構図を持っています(このブログもある種の「政治的表現」ですよね・・)。

ちょっと前に「白と金」や「青と黒」に見える不思議なドレスの写真が流行りましたが、今回の一件、みなさんにはどちらのストーリーに見えましたでしょうか?

まとめ!

以上、ネットで話題の「フラッシュモブ騒動」を、ゴフマンを絡めて説明してみましたが、いかがでしたでしょうか。

この騒動は人によっていろいろなストーリーを見出すことができると思いますが、一番現実的にありそうなストーリーは、普段から旦那さんとスレ違い気味で欝々と不満を募らせたお嫁さんが、今回のフラッシュモブでついに切れてしまい、離婚に踏み切ったという話です。

フラッシュモブ自体は実はたいした問題ではなくて、それ以前からすでに沸点を超える寸前だったということです。

以前離婚案件をたくさん扱っている弁護士の人の話を聞いたことがありますが、離婚の際にお嫁さん方に理由を訊いてみると「なんでそんなことで・・?」という些細なことが原因であることが多いそうです。

普段の生活におけるちょっとしたスレ違いがしだいに大きな溝を生んでしまい、最後に破局的な結末を迎えてしまうというケースがとても多いんですね。

今回私はゴフマンの話をねじ込むために相当捻った読み方をしましたが、本当の破局の原因というのは「彼とは感覚が合わない」みたいな、なんだか言葉で表しにくいところにあるのかもしれません・・。


参考サイト・参考文献:
参考「スティグマの社会学―烙印を押されたアイデンティティ」, アーヴィング ゴッフマン, 2001
参考「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」, 押見 修造, 2013
参考「カサンドラ症候群」, Wikipedia

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