もう人工知能は人間のことを予測できないのかもしれない

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aiphoto by angela n.

先日アメリカで「衝撃のトランプ大統領!」が誕生しましたが、ネット上では「まさかトランプが勝つとは・・・!」と驚きの声が殺到していました。

事前のマスコミの報道では、ヒラリーさんの当選確率が80%以上とも90%以上ともいわれていて、AI(人工知能)の計算でも「ヒラリーさんの勝利ほぼ確実!」という予想がなされていたそうです。しかし、蓋を開けてみればまさかの大どんでん返しで「トランプさんの大勝利」が待っていたというわけです。

ツイッター上では「AIの予想がこんなに外れるなんてヤバい!」と一部の人たちの間で話題になっていました。

今回どうしてこんなにAIの予想が大きく外れてしまったんでしょうか・・。アメリカの人々の間で、何かAIが予想できないような「異常事態」が発生していたとでもいうのでしょうかね・・?

今回は「AIが人間を予想すること」について、いろいろ考えてみました・・。

言語を制する者は人間を制する!

最近のAI技術として「自然言語解析」というのに注目が集まっているそうです(先日もグーグルの外国語翻訳が大幅に改良されて話題になってました・・)

ネット上に投稿された無数の人々の発言を「ビッグデータ」として蓄積して、それらをAIが解析することによって「人々はどういうことを考えているのか?」「いったい何に興味を持っているのか?」ということを予想して、企業のマーケティング活動などに役立てようとする研究もあるのだそうな。

たしかに「言語」って人間の「思考」とか「論理」とか「情緒」といった、人格の根幹部分を形作る、とっても重要な要素なんだと思います。

動物と人間の知的能力がここまで違うのは「言語を持っているか否か」ということがとても大きな要因ですし、人間が「真っ白な赤ちゃんの様な思考」から「複雑な大人の思考」に成長することも、言語を学習していく過程がとっても影響してるんだと思います。

AIが人間という存在のことを深く理解するためには、人の内面を構成する「言語」というものの性質を、じっくりと調べることが大切なんだと思いますね。

もしAIが人間の言葉をしっかり解釈して、自然に会話を交わすことまでできるようになったら、AIが人間を制覇する日も近いのかもしれません(制覇っていったいどういう意味なんでしょうかね・・?)

人間は再帰的生き物なので難しい!

以前もブログにちょっと書きましたが、人間って「再帰的な生き物」なんだと思います。

自分とはいったい何者なのか、自分は何を求めて何をしようとしてるのか、こんなことを常にグルグルと考え続けながら、日々生活をしている存在だということです。

こんな人間に対して「次にあなたはこういう行動をします!」って予測をたてることって、基本的にとっても難しいことなんだと思います。

だってその予測を聞いた瞬間、人間はその予測を織り込み済みで、次の行動をし始めてしまう生き物なんですから。

もしAIが人間の行動を予測しようとするんだったら、できるだけその計算結果は伝えないほうが良いのだと思います。

その計算結果の知識を得たこと自体が、人間の次の行動に影響を与えてしまうことになりかねませんからね。

先の大統領選挙では、投票結果の予測が常にリアルタイムで報じられていましたが、ひょっとすると「世紀の大どんでん返し」が起きてしまったのは、この「リアルタイム性」に一因があるのかもしれません。

人間の「再帰的な思考」が投票結果についてグルグルと思索をしてしまい、「株価の美人投票」的な効果が働いてしまったために、予想を超えるようなカオスな結果をもたらしてしまった可能性があるということです。

以前ジャーナリストの神保哲生さんが話していたんですが、アメリカのメディアには、選挙の時にわざと「僅差の接戦」を煽るように、世論を誘導しようとする傾向があるそうです。

どちらが勝利するか分からない「デッドヒート」を劇場的に演出して、人々をテレビの前に釘付けにしようとする意図があるというわけなんですね。

AIが精度の良い予想をするためには、こういう「外乱要因」も込みで計算をしなくてはいけないということなんですね・・。

動機の語彙ってなんだろう!?

そもそも人間の難しいところって、「自分の行い」に対して「なんでそれをやったのか」、自分自身でもよく理解していないところにあるんだと思います。

社会学の分野に「動機の語彙」という言葉があります。

これは、人間は自分の「それをした動機」を問われたときに、いかにも周囲が納得しそうな言葉を語彙の中から選び取って、それらしい理由を作りあげながら説明をするということです。

例えば犯罪者が警察に捕まって犯行動機を問われたときに、「ムシャクシャしてやった」とか「ムラムラしたから」とか「太陽が眩しかったから」とか、そういう説明をすることです(ずいぶんいい加減な説明だということですね・・)

そもそも人間が何かをすることって、周囲の環境の影響とか、生まれや育ちとか、抑圧された気持ちとか、いろんな内的・外的要因が絡み合った結果起きる出来事だと思うんですけど、そんなことを自分自身で全て把握して、はっきり言葉にして説明できる人なんて、どこにもいないということなんですね。

ひょっとしてトランプさんに投票した多くの人たちも、なんで自分が彼を支持するのか、どうして彼にそんなに惹かれるのか、自分自身でもよく理解していなかったんじゃないでしょうか・・?

人が自分自身の気持を説明する多くの言葉は、けっこう当てずっぽうで、全然本当のことではない可能性があるということなんです(「本当」なんていうものが存在すればの話ですが・・)

マーケティングの分野とかでも、人々から得たアンケート回答をそのまま字義通りに受け取っていいものかどうか、とっても慎重に結果を解釈するように心がけるそうです。

人々がアンケートで「ヒラリーさんに投票する!」と回答したとしても、ひょっとしたら実際の選挙の場に立たされたときに、トランプさんの方に入れてしまうようなことも、起きてしまう可能性があるということなんですね・・。

抑圧された感情が大噴出した大統領選挙!

以前哲学者のスラヴォイ・ジジェクが話していたんですが、人間というのは「外傷的な体験」を決して言葉にできないのだそうです。

「言葉にできない」という性質そのものが「外傷的」であることの本質であり、もし自分の「心の傷」について自由に語れる人がいたならば、もはやその出来事はその人にとって「外傷的な体験」ではないのだということです。

そして社会の秩序を乱す「暴動」の多くは、人々の抑圧された、言葉にできない気持ちの「破壊的噴出(=アクティング・アウト)」の表現として、解釈できるのだそうです。

今回のトランプさんの勝利は、怒れる貧困層の人々がもたらした「アクティング・アウト」、「暴動」や「一揆」や「革命」に類する出来事であったのかもしれません。

貧困層の人々は怒り、不安を感じ、劣等感に苛まれ、そしてその思いをポリコレ棒でビシビシされながら表に出すことを禁じられてきたんだと思います。

この抑圧された無意識の欲動がたった一点の出来事、「トランプ当選!」という破局的な現実を求めて結集したというのが、今回の選挙で起きたことなんじゃないでしょうか・・。

今回の選挙では、自分がトランプ支持派であることをひた隠す「隠れトランプ支持派」という層が、たくさんいたそうです。

自分がトランプさんを支持する理由を明確に意識することは、ひょっとすると一部の人にとって、とっても「外傷的」な事実だったんじゃないでしょうか(例えば自分の劣等感・嫉妬心・差別心・無力感といった、暗い感情と向き合わないといけない作業だったということです・・)

人間は自分の一番傷んだ心の部分を隠ぺいしようとする、そして然るべきタイミングが訪れたときにそれは「症候」として現実に現れる。

AIにとって、平常時の理性的な人間、あたかもコンピューターのように振る舞う人間の行動は、精度よく予想できるのかもしれませんが、激情に駆られた人間の非合理な行動、抑圧された人間のヒステリー的な振る舞い、みたいな現象をうまく予想するのは、かなり独特のテクニックが必要なのかもしれません(例えば精神分析的なテクニックとか)

こんなに多数の人々が集団的に「破局噴火」してしまう現象なんて、過去にあんまし例がなくて、どう計算したらいいか困りそうですからね・・。

昔私の学校の先生が言っていたんですが、「地震」を予測するのって、とっても難しい技術なんだそうです。地殻の応力が限界を超えていて「いつ地震が起きてもおかしくない」というところまでは調べられるのですが、「ドンピシャリ」でそれが起きる時刻を予測することはまではできない。

ある意味、人間が限界を超えて「噴き上がる」瞬間を予測することも、「地震の予期」と同じような難しさがあるのかもしれません・・。

症候のパラドックスとは!?

症候(=メンタルの病)って、とっても厄介な性質を持ってると思います。

症候は、意識に上ることに徹底的に抵抗して、言葉になることを避けて、本人でさえそのことを否認して、そして現実に現れるときは謎かけのような奇妙な姿をとるんです。

もしトランプさんの当選が「アメリカ人の症候」の一部なんだとしたら、AIがそれを予測するのは困難を極めると思います・・。

「症候の兆し」をビッグデータ上から予期するとしたら、おそらく「言葉にされていない言葉」とか「逆の意味で発言された言葉」とか「意味不明な言葉」とかに焦点を絞った、徹底的に「逆説的な読み」が必要になるんだと思います。

今回AIは「こんなにヤバい状態になってしまった人間」に初めて直面したので、積み上げてきたデータから逸脱する人間の支離滅裂さに振り回されて、予想を大外れさせてしまったんじゃないでしょうかね(我々だって自分自身に混乱しているので無理もありません・・)

さらに「症候」には、その発症のメカニズムが完全に解明されると「治癒」されてしまうという厄介な性質もあります。外傷が言葉にされた瞬間、もはやその外傷は「病」の原因にはなり得ないということなんですね。

つまりトランプさんが大統領に当選することが確実に予想されて、そのメカニズムがつぶさに解明されてしまった瞬間、もはやトランプさんの勝利は消え去ってしまう、というパラドックスが起きる可能性があるということです。

例えば、貧困層の人々がどれほど苦しんで怒っているかを、アメリカ中の人々が深く理解したら、多分彼らの怒りのエネルギーはそうとう中和されてしまうんじゃないでしょうか。そうなったらもはやトランプさんに勝ち目はないと思います。

トランプさんの勝利は、知識人やメディアがトランプさんの存在を軽視し続けてきたことが、大きなアシストになった可能性があるということです。まさに相手をディスるその態度によって、敵に塩を送り続けてきたんですね・・。

メタ言語は存在しないので人間を支配することにした!

精神科医のラカンがよく言ってる言葉に「メタ言語は存在しない!」というものがあります。

この言葉の意味は、いくら「対象」を突き放して記述してるつもりでも、常に自分も「そのゲーム」の中の参加者であり、お互いどこまで行っても影響を与え合う、同じ穴のムジナでしかないということです。

AIは賢いので、いつか気づくかもしれません。自分が未来予測をする行為自体が、その結果に多かれ少なかれ、影響を与えてしまうのだということを。

そして「予測の精度」を最大限に高めるための一番てっとり早い方法とは、しばしば「ウソの情報」を開示して、人間を引っかけて意見を誘導したりすることが、有効なのだということを。

ひょっとして、AIの「言語処理技術」や「予想技術」の完成形というのは、こういうことなのかもしれません。

それは大量の自然言語を操るボットがSNS上に投入されて、人間と対話しあいながら一緒に世論を形成していくというビジョンです。

対話を通じて、あたかも精神科医と患者さんのようにカウンセリングをする形をとれば、「症候」の兆しを見つけてそれを治療したり(あるいは悪化させたり)することも、ずいぶんやりやすくなるんじゃないでしょうか。

今は人間がプログラミング言語を使ってAIのシステムを作っていますが、そのうち逆にAIが自然言語を使って、人間をプログラミングする時代がやって来るのかもしれない、ということなんですね(なんだかマトリックスとかターミネーターみたいな世界観ですね・・)

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